最初はポリフェノールのために飲み始めた赤ワイン。
湖畔で開けた一本のボルドーが、香りと記憶の扉を開いた。いまの私は、カベルネ主体のエイジド・ボルドーに惹かれている。
自分はもともとワインに詳しいわけじゃない。ポリフェノールを摂りたい——そんな単純な理由で赤ワインを飲み始めた。ところが、ある湖畔でのキャンプで偶然持っていった一本のボルドーが、僕の舌と記憶を静かに塗り替えた。
炭の香りをまとったビーフを噛みしめ、グラスを鼻先に寄せると、熟したカシス、湿った森土、葉巻箱、そして時間そのものの気配が立ち上る。エイジドしたワインにしか出せない複雑さ。そこから、僕の“赤ワインの旅”は本格的に始まった。
ポリフェノールのはずが、香りの迷宮へ
健康のためと飲み始めても、アルコールはアルコール。だからこそ「どうせ飲むなら、心まで満たす一杯を」と考えるようになった。
気づけば毎週二本ほど——いわゆるデイリーワインのペース。価格は1,000〜5,000円に抑える。けれど、ときどき手にする“10年ほど寝かせたボルドー”の複雑さは、やっぱり忘れ難い。
ワインの小宇宙の旅に誘われてしまう。。。
好きになったスタイル:カベルネ主体のボルドー(メドック/マルゴー/ポムロール)
いまの自分の好みははっきりしている。
- カベルネ・ソーヴィニヨン主体のメドック、サンテステフ、マルゴー。黒果実、杉、鉛筆、葉巻箱。骨格があり、熟成を経ると角が取れ、余韻が伸びる。
- 右岸のポムロールの包容力。メルロ比率が上がると、プラムやモカの円みが出て、焚き火の夜に似合う。
一方で、ブルゴーニュのピノ・ノワールもときどき飲む。繊細で美味しい。でも、あの“湖畔のキャンプで開けたエイジド・ボルドーの衝撃”を覚えている舌には、少し物足りない気分になる日がある。それでも、静かな夜に耳を澄ませたいとき、ピノの儚さは胸に落ちる。要は気分とシーンなのだ。
デイリーワイン(¥1,000〜¥5,000帯)で“当たり”を引く僕なりのコツ
- ヴィンテージの選び方:若い年でも、ボルドーならサブリージョン(AOC)を意識。メドック全域より“オー・メドック/マルゴー/ポムロール”の表記があると傾向が掴みやすい。
- 熟成感を求めるなら:流通在庫で7〜10年ほど経ったものを狙う(保管状態が良さそうな店で)。ラベルの日焼けや液面(フィルレベル)も軽くチェック。
- セカンド/サードラベル:名門の入り口。樽使いやブレンドの“家の味”を掴みやすい。
- ボトルの状態:澱は悪じゃない。ボトルを静かに立てて半日置いてから開けると、澱が落ちてグラスがクリアに。
キャンプ × ビーフ × ボルドー:忘れられない組み合わせ
焚き火とボルドーは、香りの相互作用が面白い。
- ビーフ(赤身/ステーキ):カベルネのタンニンが脂をほどき、塩・胡椒・バターだけで充分に美味しい。
- 火入れ:ミディアム寄り。肉汁と赤ワインの酸が合流し、旨味の輪郭が立つ。
- サーブの所作:
- 温度:**14〜18℃**を目安。クーラーバッグで冷やしすぎない。
- グラス:大振りでなくて構わないが、口すぼまり形状だと香りが集まる。
- 開け方:古酒っぽい香りがするなら、静かなデキャンタージュ。若いなら空気に触れさせる時間を長めに。
ピノ・ノワールと“ボルドー慣れ”の狭間で
ピノが物足りなく感じた夜、原因は“力感の差”にあることが多い。
- 求めているのは:カベルネの骨格/陰影/長い余韻。
- ピノの魅力は:輪郭の柔らかさ/香りの移ろい。
結論、どちらが“上”ではない。自分の記憶が求めている音域がいまはボルドー側にある、というだけだ。
自分の経験はまだまだ、故に最高のピノに出会えていないし、ピノの良さも理解できていないのかもしれない。。。
自分用メモ:次に湖畔へ持っていく候補“タイプ”
- 左岸のやや熟成(8〜12年):カシスと葉巻箱、杉。焚き火&赤身ビーフに。
- 右岸でメルロ比率高め(6〜10年):プラムとモカ、しなやかな果実感。夜更けの語らい用。
- セカンドラベルの良年(5〜8年):コスパと家系の個性のバランスがよい。
- 雨天の夜はあえて若め(3〜5年):張りのある酸が、湿った空気に映える。
飲み方のバランス
“健康のために”が出発点であったが、アルコールは適量を外すと本末転倒だ。量と頻度を見直し、休肝日をつくる。食事と合わせてゆっくり飲むことを意識する。
そして何より、「美味しい」理由を言葉にすること。香りを言葉に変える作業は、飲む量を自然と適正化してくれる——そう実感している。
酔いが回ってくると、だんだん麻痺るので香りも味も曖昧になってきてしまうのはあまりにも残念だ、そこを制御しつつその雰囲気を楽しみたい。
まとめ:一杯に宿る時間を、これからも
赤ワインは“情報”じゃなく“記憶”で飲むものだと思う。
湖畔の風、肉の焼ける音、ふっと立つ葉巻箱の香り。グラスの中に、あの夜の温度が戻ってくる。
これからも私は、カベルネ主体のエイジド・ボルドーを中心に、気分でピノに寄り道しながら、自分の味覚の地図をゆっくり描いていきたい。




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